雨宿り〜大きな傘を君に〜
「おはよう」
「おはようございます」
いつもの朝が始まる。
夜更かしをしたとは思えない程、清々しい顔をした先生と洗面所で挨拶を交わす。
あまり眠れなかった私の瞼は重い。
歯を磨く先生を横目に、洗濯を始める。
唯一、私が任された仕事だ。
女性物は洗いにくいからハナちゃんに頼めるかな。そう菱川先生に配慮してもらい、洗濯係に任命された。
「今日はスクランブルエッグと、目玉焼きどっちがいい?」
鏡越しに菱川先生と目が合う。
「…目玉焼きがいいです」
「了解。半熟で平気?」
鏡の前で無理矢理にクシで寝癖を作っているように見える菱川先生はいつもと変わらない。
それでも私の心はーー昨日とは違う。
そういうところが菱川先生から見たらまだ子供なんだろうね。
「ハナちゃん?」
「半熟で……」
「なんかあった?崎島?」
確かに昨日、崎島ときちんと話をした。
良い報告のはずだけれど今更、菱川先生に話す気は無かった。
「いえ。崎島とはあれから何もないです。私のこと、もう飽きちゃったのかも」
初めて、先生に嘘をついた。