雨宿り〜大きな傘を君に〜
お寿司が届くと、すぐに菱川先生が帰ってきた。
予定より早く会議が終わったらしい。
「うわ、緒方さんお寿司とってくれたんだ」
「たくさん食え」
「ご馳走になります」
手袋とマフラーを外しながら先生はキッチンに立つ私を見た。
「なにか作ってるの?」
「お豆腐のお味噌汁です」
「ありがとう。大盛りで頼むよ」
「はい!」
爽やかな笑顔でお礼を言われて嬉しくなり、少し大きめの器を用意する。作った甲斐があったな。
誰かのために料理ができるって幸せなことなんだよね。食べてくれる人がいないと成立しないから。
「そういえばハナちゃん、土曜日は空いてる?」
お味噌汁と小皿をテーブルに並べていると、部屋着に着替えて戻ってきた菱川先生に尋ねられた。
一瞬、崎島との約束がバレてしまったのではないかと冷や汗をかくが、すぐにそれはないと思い直す。
「買い物に付き合って欲しくて」
付け足された言葉にホッと息を吐く。
「土曜日は出かける予定があって…」
なるべく平然と答えたつもりだ。
「そっか。1日?」
「はい。その予定です」
崎島とはまだ待ち合わせ時間を決めていないから、1日空けておいた方が良いよね。
「買い物は日曜日でも良いですか?」
「もちろん」
休日は家にいるか図書館に行くかのどちらかだから、予定があるなんて怪しまれるかもしれないと思ったけれど、菱川先生はあっさりと引き下がってくれた。
ごめんなさい、先生。