雨宿り〜大きな傘を君に〜
しかし反対に緒方さんに鋭い視線を向けられていることに気付く。
けれどそれも菱川先生が咎めてくれた。
「緒方さん。年頃の娘にどこに行くか、誰と行くかなんていう不躾な質問はしないでくださいね」
「してねぇだろうが」
「するつもりだったでしょう」
「しねぇって言ってるだろうが」
小皿に醤油を注ぎながら先生は笑った。
「ハナちゃんも答えなくて良いからね」
「はい…」
もし、誰と行くの?
そう聞かれていたら、私はまた嘘を重ねていたのだろうか。
それは私を心配してくれている2人への裏切り行為だ。
いっそ、言ってしまおうか。
また気持ちが揺れる。
「ハナちゃんも早く座って。新鮮なうちに食べよう」
「あ、はい」
「緒方さんビールでいい?」
「おう」
けれど、私はまた言えなかった。
悪いことをしているわけではないのにね。