俺の「好き」は、キミ限定。
 


「え……わ……っ!? もうこんな時間……!」


そのとき、ふと携帯の時間を見て驚いた。

早めに着いていたはずなのに、待ち合わせ時間まで、もうほとんど時間がなかった。

待ち合わせ場所である水族館までは、ここから歩いて五分ほどだ。

余裕を持って行動しようと思っていたのに、ユウリくんのことを考えていたら、あっという間に時間が過ぎていた。


「……もうっ。考えるのヤメヤメ!」


鏡の中の自分を見て、言い聞かせる。

慌てて荷物をまとめた私はトイレを出ると、駆け足で入場ゲート前へと向かった。


 ✽ ✽ ✽

 
「ミオ、こっち!」


土曜日ということもあり、水族館は家族連れやカップルで賑わっていた。

チケット売り場には列ができていて、もう少し早く着いていれば良かった……なんて思ったけど、とき既に遅し、だ。


「ご、ごめんね、ユウリくん。時間ギリギリで……」


謝ると、ユウリくんは「大丈夫だよ」と笑ってくれる。


「チケット、買いに行かなきゃだよね。並んだら、十五分くらい掛かりそうだけど……」


ああ、もう。私がもっと早く着いていたら、列もできていなかったかもしれないのに……。

けれど、私がそう言ってチケット売り場を見ると、ユウリくんは(おもむろ)に携帯電話を取り出した。


「はい、これ」

「え……」


開かれたカバーに挟まっていたのは、水族館のチケットだ。

それを手に取ったユウリくんは、一枚を私に向かって差し出した。

 
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