俺の「好き」は、キミ限定。
『この間、ユウリからミオちゃんが昔、心ない言葉で傷つけられたことがあるって聞いて、まさか、とは思ったんだ……』
そう言うと、ナルは眉根を寄せて、苦々しそうに顔を歪める。
『お姉さんの話と、過去に友達だと思っていた男に傷つけられたって話を聞いて……まさか、とは思ってた』
弱々しく話すナルには、いつものどこか飄々とした余裕たっぷりな様子はなかった。
ああ……だからナルはあのとき、どこか思い詰めたような表情をしていたんだ。
『中学生の頃……自分のことしか見えてなかった俺は、フラレて、行き場のなかった苛立ちを自分を心配して来てくれた、"ある女の子"にぶつけたんだ』
『それって、つまりどういう……』
『好きだった相手の妹の、シラサカに八つ当たりした。あのとき俺は……とにかく投げやりになってて……。無関係のシラサカに、酷いことを言って傷つけたんだ』
──ドクン、と胸の鼓動が大きく跳ねた。
その直後、俺は初めて怒りで身体が震えるという経験をすることになる。
『シラサカに、お前なんて姉貴のオマケのくせにって言った。お前に近づいたのも、シラサカのお姉さんに近づくためだったって……。お前のことも友達だと思ったことはないって、何も悪くないあの子に強く言い放ったんだ』
『……っ、』
気がついたときには、手遅れだった。
俺は友達であるナルを殴って、胸ぐらを掴んで引き寄せていた。
『なんだよそれ……っ! ミオは、お前がお姉さんにフラレたこととは無関係だろ……っ!』
『……っ、そうだよ! そんなことはわかってる……っ。だけど俺はあのとき、もう本当に、何もかもがどうでも良くなってて……っ』
『ふざけんなよ……‼ だからって、ミオを傷つけていい理由にはならないだろ……っ!! 言い訳するなよ……!!』
叫んだせいで、息が切れた。
胸の鼓動の音だけがバクバクとうるさくて、ナルを掴む手も震えていた。
だけど頭の中はグチャグチャで、もう、どうすればいいのかわからなかったんだ。
だって、まさかナルがミオを傷つけた張本人だったなんて……。
過去のナルが言った言葉で、ミオはどれだけ傷ついただろう。
子供の頃から、お姉さんと比べられながら過ごしてきたミオが……。
友達だと思っていたナルに酷いことを言われて、どれだけ辛かったかと思ったら、やり切れない気持ちになって、たまらなかった。