俺の「好き」は、キミ限定。
『くそ……っ』
たった今、ナルを殴ったせいで痛む拳を強く握り締めた。
直後、罪悪感に襲われて、胸の奥がヒリヒリと痛み始めた。
俺は今、感情のままにナルを責めてしまったけれど、それは正解だったのか?
もっとナルの言葉に、耳を傾けるべきだったんじゃないのか?
『……お姉ちゃんが磨かれた宝石だとしたら、私はこの不格好な、シーグラスのままなんだと思う』
だけど、ふと、脳裏を過ぎったのはミオの、どこか遠くを見る悲しげな瞳で……。
ナルがミオを傷つけたことは確かなんだ。
そう思うと、やっぱりナルを簡単には許す気持ちになれなくて、噛み締めた唇が僅かに震えた。
『雨だ……』
そのとき、突然、空から雨の雫が落ちてきた。
すぐに考えたのは、走り去ったミオが今、どこにいるのかということだ。
慌ててミオに電話をかけたけれど、当然のごとくミオがその電話に出てくれることはなかった。
ミオ……。
もしかしたらミオはもうすでに、電車に乗って家路についているかもしれない。
そう思った俺はいても立ってもいられなくなって、ミオの家に向かうべく、雨の中を駆け出そうとした。