俺の「好き」は、キミ限定。
 

『──加原! 何やってんだ!』


けれど、駅に向かって走り出そうとした俺を、生徒指導の先生が呼び止めた。


『学園祭だって授業の一環なんだから、勝手に抜け出そうとするんじゃない!』


鬼の形相で言う先生は、すでに何人か捕まえたあとだったのか、仁王立ちでこちらを睨んでいた。

結局、従うしかなかった俺は、先生に連れ立たれて校舎の中に戻るしかなくて……。

その間にも雨はどんどん強くなり、あたりを白く染めていく。

校舎の中から窓の外を眺めながら、俺は鳴らない携帯電話をギュッと強く握り締めた。




「ハァ……」


──だけど、今になって思えばあのとき、先生を振り払ってでもミオを追いかけるべきだったんだ。

電車に乗ってミオの家まで行って、きちんと話をするべきだった。


『触らないで……っ』


あの日、俺の手を振り払ったのはミオなのに、誰よりもミオ自身が追い詰められた表情(かお)をしていたことが頭から離れない。

同時に、時間が経てば経つほど、ミオとの距離が開いていくような気がして……不安と焦りばかりを募らせた。

……やっぱり、思い切ってミオの家まで行くべきかな。

チラ、と上げた視線の先ではナルがぽつりと座って本を読んでいて、胸の奥がチクリと痛む。

ナルとのことだって、本当はこのままにはしておけない。

いくらナルがミオを傷つけた相手だからって……ナルとももう一度、きちんと話をするべきだとわかってる。

だってナルは……俺の大切な親友だから。

そのためにもまずは、ミオと話をしないと始まらない。

そう思う反面、俺が会うことでミオをまた傷つけることになるんじゃないかという、漠然とした不安もあった。

 
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