俺の「好き」は、キミ限定。
「足元、気をつけてください」
……ああ、今日は、妊婦さんに席を譲ってる。
譲られた妊婦さんは「ありがとうございます」と口にして、お腹を守るようにしながら"彼女"が譲った席へと腰掛けた。
彼女が着ている制服は、俺が降りる駅の向こう側にある共学の高校のもので、結ばれたリボンは今日もキッチリと彼女の胸元を守っていた。
わたあめのようにふわふわとした髪が、彼女が動くたびに静かに揺れる。
白くて細い、華奢な身体。クリクリとした目は可愛くて、いつも真っすぐに前を向いていた。
右手で吊革を掴み、器用に鞄を抱えた彼女は左手で開いた本に目を落としはじめる。
……なんの本を読んでいるんだろう。
はじめて彼女に気がついたときにも、彼女はああして本を読んでいた。