俺の「好き」は、キミ限定。
あのときは、おばあさんに席を譲ったあと、今日のように周りを見て遠慮がちに本を開いたんだ。
そして彼女は、駅でおばあさんと一緒に降りると、雨で足元が濡れていて危ないからと言い、おばあさんの大きな荷物を持ってタクシー乗り場まで運んであげていた。
「お嬢ちゃん、ありがとね。助かったわ」
その一連の出来事に気がついた人は、あの世界の中で俺以外にいただろうか。
日常の、ほんの些細な小さなヒトコマ。
自分の高校とは反対の下り口にあるタクシー乗り場まで行った彼女は、おばあさんにお辞儀をしたあと駆け足で、自分の学校のある出口へと消えていった。
俺が彼女を知るきっかけは、そんな小さな出来事だったんだ。
だけどそれ以降、自然と彼女を目で追うことが増えて、息苦しい世界で彼女を探すことが日課になった。
✽ ✽ ✽
「あの……っ! これ、落としましたよ……っ」
──そんなある日、いつも通りに駅で降りて改札に向かおうとしたら、突然後ろから呼び止められた。
驚いて振り向くと"彼女"がいて……。
驚きすぎて、多分酷くテンパっていたと思う。