終わりにした夫婦
···一緒に帰る?
帰りに
「羽叶。亜子ちゃんを頼むな。」と、社長。
「えっ、私なら大丈夫ですよ。
片山さんは、この後ご用があるかも。」
と、言うと
「心配だから、送ってもらって。
羽叶さんに用事はないと思うし
同じ建物に帰るんだから。」
と、葵さん。
ええっ、と思っていると
「僕は大丈夫ですが、
僕が送るのは、ご迷惑ですか?」
と、片山さんに訊かれて
「あっ、いえっ、そんなことは····
先生っ、あっ片山さんは、
お忙しい方だからと、思っただけです。
ご一緒しても宜しいのですか?」
と、しどろもどろな私·····に····
「クスッ··クスッ····大丈夫ですよ。」
「もうっ‥‥そんなに笑わなくても。」
「‥クスっ‥‥すみ‥‥ません。」
「‥‥しり‥‥ません」
と、いって片山さんを置いて
私は先に歩き始めると
片山さんは、慌てて追ってきて
私の手を取った。
びっくりして、歩みを止めた私に
「あっ、急に手に触ったりしてすみません。
だけど、もう笑いませんから
怒らないでください。」
と、真面目に言う片山さんに
「·····怒って·····ませんよ。」
と、真っ赤になりながら答えると
ほっとした顔をして
「良かった。それでは帰りましょう。」
と、手を繋いだまま歩き始めた。
「あのう·····手を····」
「また、先に行ったりすると
危ないから
繋いでおきます。」
と、ぎゅっと手に力を入れながら言われて
「‥‥‥ニゲマ‥‥センヨ‥‥」
と、言うが
片山さんは、そのまま歩き続けた。
片山さんの後姿をみながら
男の人に手を繋がれたのとか
いつぶり····かしら·····
子供達とは小さい時は、
よく繋いでいたけど
なんだか····温かい····なぁ····
と、思っていたが
先生、彼女とかいないのかしら
いたら申し訳ない····と思い
なんだか心がザワザワして
足が止まると
「ん?」
と、片山さんも止まり振り向いた
「あの·····やはり·····
片山さんの恋人に悪いので。」
と、言いながら繋いだ手を見ると
「ああ、問題ないですよ。
僕には恋人も妻もいませんから。」
と、繋いだ手を見ながら言った彼に
心がかゆくなるような
温かくなるような感覚が·····
片山さんの行動は、
自分が、女性なんだと
改めて認めさせてもらえたようで
亜子は、嬉しくなっていた。
なにも話さないけど
繋いだ手から
片山さんの温かさが
伝わってきて
このまま、ずっと歩いていたい
なんて·····気持ちに·····
自分が驚いていた。
人を好きになるなんて
もうない·····
えっ、すき······?··?···
私が、
片山さん····を····好き?
夫だった正基も
最初は、すごいアプローチで
ああ、この人だったら
自分を大切にしてくれる
幸せになれると思って
付き合い······
そして
妊娠した·····
家族の為に
一生懸命働いてくれている夫に
私が家庭を守らないとって
思い頑張ってきたが····
いつしか夫は·····
家庭より家族より
仕事‥‥‥‥中心になり
家族にも、妻の私にも
興味も関心もなくなっていった。
夫婦の会話もなければ
家族の会話もない
だから·····
私は子供達の為だけに生きてきた。
だが、そんな夫の定年を前に
子供達が、それぞれの生活を初めて
あの家で夫と二人で生活をすると思ったら、
毛穴が開いた感じの悪寒がした。
愛情の欠片もなくなっていく夫に
色々話しかけたりしていた
だが‥‥‥いつしか‥‥‥
威圧的に返される用になり
« 俺は、お前達の為に働いているんだ »
が、定番になり
« 仕事が忙しいんだ »
と、言うばかり
職場の行事にはすべて参加し
職場の人が困っていると
すぐに出向いて行く
職場からの電話の応対には、
優しい言葉の数々
私の事は、
何もしてもらえなくても構わないが
子供達の行事にも
一度も参加したこともなく
会話すらしない父親
職場の人達だけを大事に大切に
思っているのが見てとれる日々に
もう、何をいっても無駄だと思った。
それからは、同居者だと思い
子供達の為だけに生きてきた。
体調が悪くても自分より
子供達が大切だった。
結婚して·····
赤ちゃんを失ってから·····
付き合っていた友人達とも
疎遠になってしまった。
お腹の子を失い
誰にも合いたくないほど
心が·····壊れて····しまったのだ。
だから、回復したからと
今さら友人達に···とは····なれずに
子供達の事、家の事をやって時間があれば
大好きな読書をしていた。
図書館へ·····いったり·····
そんな事を思いだしていたら・・
立ち止まった彼に気づかずに‥‥‥
彼が、繋いだ手をぎゅっと
したので
はぁっと、顔をあげると
心配そうな顔をして
私を見ている片山さん。
だから、首を横に慌ててふった。
彼は、わかったのか
ほっとした顔をして
「考え事ですか?」
「‥‥はい‥‥過去の事を‥‥」
「過去?もしかして山名さんの事ですか?」
「えっ、ええ‥‥まあ。」
「すみません。私が手を繋いだから
思い出させてしまいましたか?」
「あっ、いえっ、
山名とは、
出会った時ぐらいしか」
「そうなんですね。」
「はい。だから、片山さんに手を
繋いでもらって、なんだか女性として
接してもらえたみたいで
嬉しかったので‥‥
あっ、いえっ、何を····私は‥‥‥」
と、赤面してると
「良かった。
嫌ではなかったかと
気になりながらも
繋いだ手を離せなくて。
だけど、こんなことがないと
あなたに触れられないから。
私にとって、西森さんは
凄く魅力的で美しい女性です。」
「・・・・・・・」
「ああっ、すみません。
勝手なことを言ってしまい。
ここからは、弁護士ではなく
一人の男として·····ですが·····
私は、西森さんが·····
亜子さんが好きです。
私をあなたの心の中に入れては
貰えませんか?」
「‥‥‥えっ‥‥と‥‥」
「たぶん‥‥きっと
亜子さんが、私の事務所に見えた時に
一目惚れしていたのだと思います。
不謹慎なことを言ってすみません。
ただ、嘘をつきたくなかったので。
男性にもう関心はないかも
しれませんが·····
私を·····片山 羽叶····自身を見て
貰えませんか?」
真剣に伝えてくれる片山さんに
私は、頷いていた。
それをみて
片山さんは······ほっとした······
顔をしたので
クスッと、笑ってしまうと
恥ずかしそうにしながら
頭をかいていた。