心の中に奏でる、永遠の向日葵



「ね?」と、同調を求める向日葵に、俺は苦笑してしまった。
 

「参ったな。俺の弱点を見事につかんでいる。ほんと、向日葵は超能力者みたいだよ」
 

すると、向日葵は、親指を自分に向けて、得意げに微笑んだ。
 

「すごいでしょ?っていうか、自分でもたまに、すごいって思う事あるもん」


全然謙遜しない向日葵に、むしろ俺は清々しく思った。
 

俺は改めてピアノと向き合うと、右手を鍵盤に乗せた。
 

「昨日と同じで、今日も俺が右手パートでいいか?」
 
「うん。じゃあ、私が左パートね」
 

向日葵は、白魚のように白い左手の指を、鍵盤に乗せた。
 

あれ?向日葵の指、かなり細い。というか、骨ばっていて、健康に悪い指みたいだ。
 

「ん?どうしたの、日向君?」
 

向日葵が、前を向きながら問いかけてきた。
 

あ、あんまりまじまじと見つめちゃ、悪いか…。
 

「ううん、何でもない。始めよう」
 
「うん!じゃあ、行くよ。せえの!」
 

向日葵の乾いた声と共に、ピアノの音が生まれる。
 

そういえば、これ小さいころによく弾いてたよな。
 

主線のパートを弾いている俺の右手は、なんとなく感覚を覚えていた。
 

「メリーさんのひつじ、めえめえひつじ!」
 

向日葵が、肩を揺らしながら、これでもかというくらいに、楽しそうに歌っていた。
 

ほんと、なんでこんな楽しそうに弾けるのかな…?
 

これまで、数えきれないくらいのコンクールに出てきたが、なかなかここまで楽しそうにピアノを弾く人は、見たことがなかった。


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