心の中に奏でる、永遠の向日葵



というか、難易度が上がれば上がるほど、楽しいとかそんなこと、どうでもよくなってくるんだ。
 

まず音が第一優先。それから、表現力。
 

でも…。
 

向日葵は、きっと逆なんだろうな。
 

どんな下手な弾き方でも構わないから、楽しく弾こう。

それがきっと、彼女の流儀なんじゃないかと思う。
 

向日葵をもう一度見ると、体を揺らしながら、メロディーを口ずさんでいる。
 

「どこでもついて行く。めえめえついて行く」
 

その向日葵の姿を見て、俺は思わず歌詞を口ずさんだ。
 

向日葵は、一瞬曲を止めると、俺の方に目を見開いて顔を向けたが、すぐににっこりすると、曲を再開した。
 

「「どこでもついて行く、めえめえついて行く。どこでもついて行く、かわいいね」」
 

俺の地響きのような低い声と、向日葵の子供のように高い声が、交わる。
 

今、向日葵と一緒に、演奏しながら歌っている。
 

そう思うと、嬉しくてたまらなくなってきた。
 

心の中は、真っ白になんてならなかった。なんにも消えなかった。
 

ただ、子供の時、楽しく遊んでいるときに感じていた、あの純粋な幸福が、俺の心の中で広がっていく。
 

楽しく二人で笑いながら、ピアノを弾く俺と向日葵。その様子が、頭の中で生まれた。
 

演奏が終わる。俺は、向日葵と同時に、手を離した。





「…弾いてる時、何を思った?」
 

向日葵が、真っすぐどこか遠くに目を向けながら、そう静かに聞いてきた。
 

「楽しいって、思ったよ」
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