心の中に奏でる、永遠の向日葵
そこから、しばらく2人とも黙りこくっていたが、ゆっくりと向日葵は口を開ける。
「そろそろ、帰ろうか」
向日葵はぴょんっと椅子から飛び降りて、すぐ横に置いてある白杖を取ろうとする。
が、手は中々白杖に触れない。向日葵の白い手は、壁や棚を叩いている。
「取ろうか…」
俺が助けを差し伸べかけようと声をかけたとき、白杖はカタンと、乾いた虚しい音を出して、ピアノの横に倒れた。
「だ、大丈夫か?」
俺は慌てて声をかけ、今度こそ白杖を持ち、向日葵に渡した。
「あ、ごめんね。よくあることだから、そんなに気にしないで」
向日葵は明るくそう言ってくれたが、俺から白杖を受け取るときに、不意に触れた向日葵に手は、向日葵の本当の気持ちを表すかのように、細く冷たいものだった。
こういう、俺から見たら考えられない事が、向日葵にとっては日常茶飯事にあるのだ。なんだか恐ろしく感じてしまう。
でもそれ以上に、もっと恐ろしいのは、それを平気で受けいられるようになること。
そう、空川日向という、人間のように。
さっきまであんなに軽やかだった心が、少し重くなる。
「…かばん、俺がとるよ」
俺は、そんな心を振り払い、カバンも向日葵に渡そうと手に取った。
ふっと見えたカバンの中には、文房具やノートが入っている中、何種類もの薬が入ったボックスが微かに見えた。
盲目になると、こんなに薬を飲むものなのか?
「ありがとう」
向日葵は俺からカバンを受け取ると、白杖をついて歩き出す。
一瞬、脳裏にあの薬のボックスが蘇ったが、俺は頭を横に振り、短い自分の髪を揺らしながら、向日葵の後についていった。