心の中に奏でる、永遠の向日葵
「何か用?」
手っ取り早く話を終わらせたかったので、椅子にはあえて座らなかったが、母さんは「座りなさい」と、少し厳かな声で俺を促した。
なんか悪いことでもしたか?
心の中で首を傾げながら、俺はだまって椅子に腰を下ろした。
「母さんね、この辺でやってるピアノコンクールを探してみても、中々大きなコンクールを見つけれなかったの。だから、市が主催するコンクールを探してみたんだけど…」
母さんは、そのまま最初からすべて台本にまとめておいたんじゃないかと思うくらい、手際よく一枚のチラシを、俺の前に差し出した。
そこには、赤いロングドレス姿でピアノを弾く女の子の写真と、『豊橋音楽コンクール』と書かれた文字があった。
「あんまり大きなコンクールじゃないけど、それでも出ないよりかはいいでしょ?もう、エントリーシートは出しといたから。この前あなたが弾いた、『革命のエチュード』が、課題曲なの。来週の土曜日にあるから、練習しておいてね」
勝手にどんどん話を進める母さんに、俺はまた心の中でため息をついた。
よくある話だ。小学校五年生ごろから、母さんは俺の意見なんか一切聞かずに、次々とコンクールにエントリーしていっていているのだ。