心の中に奏でる、永遠の向日葵
「じゃあ、行ってくる」
土曜日。薄い紺色のシャツに、ジーパンと何でもない服装で、俺はドアを開けようとした。
「練習は?」
いつもは、俺が外を出ようとしても、何にも言ってこないのに。
リビングから顔を出してきたと思ったら、そんなことを聞いてくる。
「…やってるよ。たまには、息抜き位してもいいだろ」
そんな母さんの態度に、俺は少し反抗的な返答をしてしまった。
母さんに何かを言われるのが嫌で、逃げるように外に出る。
小鳥の可愛らしい鳴き声が、耳に入った。
風が吹いてきて、葉っぱたちが美しい音を奏でて、恍惚として聞き入れてしまう。
平和だ。平和なのに…。
「はあ…」
思わずため息をしてしまった。母さんから「練習」の一言を聞くと、いつも暗い気持ちになる。
分かってる。向日葵が昨日言っていた。母さんから『圧力』がかかってるって。
無意識に、圧力という言葉を今まで使ってこなかったけど、やっぱりこの言葉が一番腑に落ちる。
ダメだ、ダメだ。こんな気持ちで向日葵に会うと、また向日葵は俺の気持ちを悟るだろう。それでもって、「今日は行くのやめよう」なんて言われてしまったら、元も子もない。
あっという間に、あの大きなレンガの家の前に着く。俺は、ふっと息をつくと、もやもやした気持ちを振り払って、家のベルを押した。
『はーい。今行きます!』
お転婆な向日葵の声が聞こえたと思ったら、ガチャっとドアが開く。
「よかった。来てくれなかったらどうしようかと思っちゃったよ」