心の中に奏でる、永遠の向日葵
もう、逃げ出そうか。向日葵の腕を引っ張って、逃げ出すのが一番楽だ。
そのまま、どこか母さんと会わないような場所に…。
どうしても、考えがそっち方面に行ってしまう。
目の前にある壁を乗り越えようとしないで、俺は別のルートを探してしまっている。
情けない。ほんと、俺は…
「…私が、エスケープしようって、日向さんに提案したんです」
はっと顔を上げた。
ただの錯覚かもしれないけど、その時の向日葵の立ち姿は、あまりにも凛としているように思えた。
今度こそ、母さんも少し目を見開いて、向日葵の方を見た。
母さんの人間らしい表情にも、俺は驚いた。
「私は、日向さんの友達の、木下向日葵というものです。盲目ですが、日向さんと同じように、私もピアノを弾いています」
「もうも…?」と言って、父さんはさらに困惑したような表情を浮かべた。
「日向さんは、ずっと悩んでいました。感情が持てない、ピアノが好きかどうかわからない、と。だから、私がエスケープしようと日向さんを誘ったんです」
違う。確かにエスケープと提案したのは向日葵だが、もともとコンクールに出たくないと言ったのは俺だ。
そう言いたかったけど、声が出なかった。出せる状況ではなかった。