心の中に奏でる、永遠の向日葵
黒西は、教室を出ると、新校舎にある新しい音楽室に行こうとした。
「あ、こっちの古い音楽室の方が近いし、いいんじゃないか?」
俺がそう言って、いつも使っている音楽室を指さすと、「そうだね、グッドアイデア」と言いいながら、古い音楽室の道に方向を切り替えた。
ドアを開けると、もちろん扉に鍵はかかっていなかった。
多分もう使われていないから、そこまで警備を厳しくしなくてもいいと思ったのだろう。
しかし、そこまでほっとかれてしまうと、さすがにこの音楽室も虚しくはないだろうか。
「よーし。じゃあ、空川はここに座って」
黒西が、ピアノの椅子をひいて、俺を促す。
そういえば、向日葵にこうやって椅子を引いてもらったことはないな、と考えながらも、椅子に座って蓋を開ける。
見るだけで嫌悪感が湧いていた鍵盤が、嘘のように魅力的に感じた。
人間の気持ち一つで、こんなに物の見方は変わるものなのか。
「お、準備万端だね」
「何を弾いてくれるんだ?」
後から入ってきた水田と伊藤に、俺はにっこりとほほ笑んだ。
「『パガニーニによる超絶技巧練習曲から。第6番 イ短調 原曲:24番』」
伊藤の顔が、クシャッと歪む。
「何言ってんだ、お前?そんな長い題名の曲が、この世に存在するのかよ?」
すると、よこで黒西が鼻高らかに、伊藤を見下ろした。