心の中に奏でる、永遠の向日葵
そう思ったら、余計に楽しくなってきた。耳に、ややこしい音が次から次へと入ってくるが、それでさえもいい音のように思える。
自らの指を動かして、もっとこの世界を奏でたいと思った。
一回目のサビに入る。左手も右手も、複雑なオクターブを力強く押す。
迫力のある音が、この音楽室全体に響き渡っていく。
この前とは全然違う。心も音も、全部が軽やかになっていた。
「すごい…」
水田がそう言ったかと思えば、
「全然違う…」
黒西は、変化に気づいてくれたようだ。
「指どうなってんだ…」
伊藤がまじまじと指を見てくるので、少し恥ずかしくなりコケてしまいそうになる。
それでも、何とか一回目の山は越えた。比較的、ゆったりめで静かな部分に入る。
しかし、すぐにフォルテ(強く)が入ってくる。そのまま二回目の山だ。
楽しいこの音と共に、指の力を最大限にまで強くした。
「日向君!」
指がピタリと止まった。明るい、俺の名前を呼ぶ声が、俺の耳に入ったからだ。
俺を日向君と呼ぶ人は、一人しかいない。
慌てて入り口を見ると、そこには白杖を左手に持った、向日葵が立っていた。
「日向君、昼も来てたんだ!私、昼はたまにしか来ないんだけど、やっぱりピアノは四六時中弾いてたいよね」
向日葵は、そんなことを言いながら、俺に近づいてくる。
きっと目が見えないから、三人の存在には気づいていないのだろう。