心の中に奏でる、永遠の向日葵
審判は、赤の旗を上げたのだ。
体が固まる。瞬きをせず、上げられた赤い旗を、呆然と見つめた。
「お、おい、赤い旗って、相手の旗だよ、な?」
震える伊藤の声に、黒西はため息をついた。
パンフレットの裏にあるルール表を見て、重々しい口調で話し始める。
「…たぶん、さっきの奇声よ。攻めたのはどっちがどっちか分からないけど、多分奇声を上げたのが、相手だったんだと思う。こういう声は、気合を表す訳だし、そういうのも審査基準に入ってるんだわ」
「そ、んな…。じゃあ、水田は負けなのか?」
俺が質問すると、黒西は静かに頷いた。
バカな…。だって、あんなに頑張ってたのに…。剣道が好きだって言って、厳しい練習にも耐えてたのに…。
しかし、水田は悔しがる態度も見せず、淡々とお辞儀をすると、奥に消えて行ってしまった。
それから、決勝戦が行われ、水田と戦った榊原さんが、見事優勝したそうだ。
しかし、そんなのはどうでもよかった。
ただ、なぜ水田が負けなくちゃいけないのか、という言葉が、何度も何度も頭の中を駆け巡っていた。
試合が終わった。
選手の人も、ちょっと学校で集まったらすぐに解散という事なので、俺たちは出口で水田を待った。
誰も話さない。お調子者の伊藤でさえも、今回ばかりは暗い顔をしていた。
「それにしても、榊原。お前、初出場でよくやったな」
そんな会話が、突然俺の耳の中に入った。前を見ると、二人の男の人が、笑いながら話している。
榊原さんって、水田を負かした人だったよな。
ガタイの良い体とは対照的に、どう考えても染めているであろう茶髪の髪が印象的だ。