心の中に奏でる、永遠の向日葵
ピアノコンクール
ピアノコンクール
六月に入り、梅雨の季節が始まった。
金曜日に差し掛かった今日も、やはりじとじと雨が降っていて、少し気分が落ち込む。
水田の試合の事は、あれからあまり話さなくなった。
月曜日も、なんとなく水田の部活だけではなく、全体的に見学に行くこと自体が少なくなってきた。別に、水田が原因とかではない。ただ、なんとなく。
…いや、嘘だ。何を隠しているんだ。全部分かっているのに、今さら自分自身を誤魔化す必要もないだろう。
全く練習せずに、優勝を勝ち取った榊原さんを見て、正直焦りを感じた。
だから、特に目指すコンクールもないのだが、月曜日はできるだけピアノの練習に注ぎ込んだのだ。
普段から練習はしているが、それでも最近は、友達や学業が優先になりがちだったため、再度ピアノに力を入れ始めてみた。
しかし、前の時ほど、苦しくはなかった。縛られることはないし、なにより俺はピアノが好きなんだ。
『努力している時、今考えたらすごい幸せだった』
水田の言葉が、今の俺と全く重ねることが出来る。
少しは努力している人に、寄り添える人間になりたい、と思っている。
放課後、いつも通り音楽室に向かった。
「来たよ、向日葵」
ドアを開けると、やっぱり既に、ピアノの椅子には向日葵が座っていた。
「お、来た来た。ねえ、聞いてよ。私、ちょっと頑張ってみたんだよ。リストの『パガニーニ大練習曲 第六番 主題と変奏』」