心の中に奏でる、永遠の向日葵
もったいないのに、と思いながらも、俺は笑って返した。
「まあ、俺にとってもそっちの方がありがたいよ。将来、俺よりもすごいピアニストになって、仕事丸ごと持っていかれたら困るし」
「あ、そっか。日向君の仕事、全部横取りできるんだよね。だったら、ちょっと考えてみよっかな」
「うわ、最低!なんか俺に恨みでもあんのかよ!」
また笑いあう。こんなにも話して笑いあえる人は、向日葵くらいしかいないな、と改めて思う。
そして、ここまで自分自身をありのままにできるのは、向日葵がまず、誰よりもありのままだからだろう。
すると、向日葵は突然を笑い顔を引っ込めて、ピアノにもたれかかっていた頭を上げた。
「そうだ、その話で思い出した。日向君、知ってるかな。明日、市で行われるピアノのコンクールがあるんだけど」
向日葵の言葉に、記憶の中から、一枚の広告の紙があらわれた
そういえば、そんな話を聞いたことがある。
しかし、自分の決めたコンクールしか出ない、と母さんに言ってからは、母さんも出ろとは言わないし、結構他人事のように思っていた。
「知ってるよ。出ないけど」
「そっか。なら、都合がいいや。私、見に行きたいなって思ってたから、よかったら一緒にどう?」
心臓の鼓動が、一度飛び上がる。
『一緒にどう?』