心の中に奏でる、永遠の向日葵



胸が詰まった。
 

そんなことを言われれば、逃げるのは当然だ。

別に好きで盲目になったわけじゃないんだし、ずっと頑張って練習してきてたからこそ、そんな風に言われるのはショックでたまらない。
 

俺も、痛いほど気持ちは分かる。
 

「もう、あの子すごい泣いちゃって。それから、コンクールに憧れはあるはずなのに、『出る?』って聞くと、絶対に『嫌だ』って答えるようになっちゃったの」
 

そっか…。だから、俺が誘ったときも、「出たくない」と、あんなに出るのを必死で拒んでいたのか。
 

だったら、俺は最低な事をしてしまった。



俺が誘ったとき、向日葵はどんな気持ちだっただろう。
 

出たい、でも出れない。その二つの狭間で、格闘してたに違いない。

そんな時に、俺が勝手にキレて、ひどい言葉を浴びせてしまった。そんなの、怒るに決まってる。
 

全てが繋がって、すっきりした。

でも、それと同じくらい、俺はなんてことをしてしまったんだ、と罪悪感で胸がいっぱいになる。
 

「…俺、とんでもないことしちゃいました。向日葵が許してくれないのも、当たり前ですよね」
 

顔を手で覆って俺が呟くと、向日葵のお母さんの「いいえ」という、優しい声が返ってきた。
 

「私は…。私からは、何も言えないわ。でも、向日葵は、あなたの事を嫌ってないと思う」
 

とんでもない言葉に、俺は心臓が跳ね上がった。
 

「それって、どういう…」
 
「向日葵なら、今、ひまわり畑のピアノ部屋にいるわ」
 

向日葵のお母さんの、意味深な言葉。でも、俺はすぐに意味が分かった。
 

自分で、向日葵の言葉から、聞いて来いと言っているんだ。
 

俺は、ソファから立ち上がると、向日葵のお母さんにお辞儀をして、向日葵の家を出る。
 

日本茶、結局飲めなかったな、と出ていく間際に思った。



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