心の中に奏でる、永遠の向日葵

 

聞き違い。俺の理解力不足。何かの間違い。 
 

俺は、そう思って、少し間を開けてから、向日葵に聞き返した。
 

ところが、向日葵はさっき泣いていたのが嘘のように、にっこりと笑うと、「へへ」といつも通りの態度を取った。
 

「だかーら。私は、後、余命が九ヶ月ですってこと」
 

「分かった?」と、向日葵がオッケーサインを出して、無邪気に笑う。

でも、俺は何も言わずに、向日葵のおかしな態度を、殻が抜けたように、見つめることしかできない。
 

向日葵が弾いていた、『悲しきワルツ』。もともと、クオレマという、劇の中の一つの挿
入歌として知られている曲だ。


そして、クオレマの意味は、
 



…死



向日葵は、これを知っていて、『悲しきワルツ』を演奏していたのだろうか。
 

「嘘、だよな?」
 

俺のかすれた声の問いに、向日葵はゆっくりとほほ笑みながら、首を左右に振った。
 

「こんなこと、冗談で言うわけないでしょ?」
 

そうだ。当たり前だ。向日葵が、そんなことを言うはずがない。
 

思い返してみれば、辻褄があうこともたくさんある。

鍛えられているはずなのに、なぜか異様に細い指。そして、それに負けないくらい細い足。
 

毎週月曜日、学校に来ないのも、病院に通院していたと考えるのが、妥当だろう。

先生の不審な態度も、向日葵の事を分かっていたから、と考えると納得できる。


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