心の中に奏でる、永遠の向日葵



思いたいけど…。これが、事実なんだよな。
 

「向日葵、練習しようか」
 

俺は、向日葵にそれだけ言うと、楽譜は取り出さずに、向日葵の左横に座った。
 

「じゃあ、とりあえず通しで一回やってみよう」
 
「うん。分かった」
 

向日葵は、素直に従ってくれる。 
 

楽譜は見ない。暗譜もしてきてるし、なにより、目が見えない向日葵に、少しでも近づきたかったから。
 

「じゃあ、弾くぞ」
 

最初は、左パートの俺から入り、右パートの向日葵が入ってくる。
 

音は大丈夫。向日葵の演奏も、確かに完ぺきだ。
 

後は、俺が最大限に、向日葵のサポートをするだけ。
 

リズムが変わった。向日葵の音が、少しだけ複雑になるが、向日葵は何てことないような顔で、滑らかに指を動かしている。
 

毎回、毎回、向日葵のピアノを弾いてる姿を見ていると、必ず思ってしまう。
 

向日葵は、きっと素晴らしいピアニストになる。このまま何にもならないなんて、もったいない。
 

でも、それは、ただのわがまま。向日葵の未来を変えることなんて、できやしないんだ。


結局、『死』ってどういう事なんだろう?


大して生きることを望んでなくても、人に『死』は訪れない。でも逆に、どんなに生きることを望んでも、『死』は容赦なく近づいてくる。
 

そして、『死』に関しては、人の努力は通用しない。


< 352 / 398 >

この作品をシェア

pagetop