心の中に奏でる、永遠の向日葵
向日葵が突然そんなことを言い出したので、俺は「ああ」と短く答える。
もっと、ちゃんと返事をした方がよかっただろうか。
しかし、向日葵はそこには突っ込まず、話をつづけた。
「でもね、最近は、ピアノを弾くたびに、同じ世界しか奏でられないの」
「へえ。どんな世界?」
何でもない事のように、俺は聞いた。気にはなるが、さして知りたいって程でもなかったから。
でも、向日葵は目を瞑って、「また見えた」と楽しそうに、独り言を漏らす。
「いつからだったかな。私、最近ピアノを弾いてる時じゃなくても、目を瞑っただけで、太陽と、ピアノを弾く日向君の世界が見えるの」
「俺の?」
向日葵は、にっこりとしながら、でも俺には顔を向けずに、頷いた。
「うん。まだ見たこともない、日向君の顔を想像して、そんな世界を奏でるの。そうすると、本当に太陽に照らされたみたいに、温かくなれる。何よりも楽しくなってくる。どうしようもなく辛いこと、全部忘れられる。日向くんのことを、そばに感じれるから」
嬉しさを通り越して、泣きたくなってしまった。
もちろん、向日葵がこんなにも、俺の事を想ってくれてることへの、嬉し泣きもある。
けどそれ以上に、『どうしようもなく辛いこと』の意味を、模索すれば模索するほど、心臓が締め付けられたみたいに、痛くなった。
向日葵を失いたくはない。ずっと、ずっと一緒にいたい。そのためには、どうすればいいんだ?
俺は、自分の気持ちを隠すように、顔を下に向けた。
「…あ、りがとう。でも、俺は、太陽みたいに明るくなんかない」