君の笑顔に涙する
僕は、震えた手で、ゆっくりと、病室のドアを開けた。
その瞬間、好きなものと嫌いなものが書かれた、凛に渡された紙が頭の中を過った。
──そう、凛は……好きなものを、忘れてしまったんだ。
「あ、有! 待ってたの!」
凛は、いつものように満面の笑みで僕を迎えた。
凛の忘れたものの一貫性に気づいたとき、僕は思わずにいられなかったことがある。
──じゃあ、なんで……凛は僕を覚えているんだ?
凛の言葉が、頭の中でグルグルと回る。
「相思相愛、ってやつ?」
僕の頭に、『好き』の欄に書かれた、僕の名前を思い出す。
グッと、拳を強く握る。
嬉しかった。
凛が僕のことを覚えていてくれて。たまらなく嬉しかった。
特別なんだと、そう思っていた。
本当は僕の事を好きで、僕を覚えていたのはたまたまで、僕が特別。
きっと、そう思う人もいるだろう。
だけど……昨日の会話が、そんな妄想を打ち消す。
「有、どうしたの? 早くお話、しよ?」
そう、無邪気な笑顔を見せる凛。
この笑顔も、僕を見て嬉しいんだと……そう、思っていた。
でも本当は……覚えている人が現れて、安心しただけだったんじゃないか。
舞い上がっていた僕を、嫌な想像が、一瞬で奈落へと突き落とす。
──凛は、僕を嫌いなのかもしれない。
「有! 早く!」
そう言う凛の笑顔に、僕の頬に一筋の涙が流れた。