君の笑顔に涙する

 「お前は、何が言いたい?」

 「……なにがって」
 「聡、僕を誤摩化せると思うな」

 そう言うと、聡はゆっくりと、長く息を吐いた。

 「……俺のクラスの担任、誰かわかるか?」
 「名前は忘れたけど、男だろ」
 「浅野ちゃんが覚えてたのは男だけだ」
 「それがなんだよ。凛が男きら」

 『凛が男嫌いとでも言いたいのか』、そう言おうとしたとき、僕の頭の中に一つの疑問が浮かぶ。

 その疑問が浮かんだ瞬間、僕は勢い良く立ち上がり、早歩きで背中を向けている聡へと近づく。
 そして、聡の肩を掴み、こちらを向かせた。

 ようやく見せた、聡の表情は──罪悪感でいっぱいの、酷いもんだった。

 「聡、つまりお前はこう言いたいのか」
 「……」

 「凛はお前が好きだって」
 
 その言葉に、聡は視線を逸らした。

 そんな聡に、僕はグッと、拳を強く握り、唇を噛み締める。

 「……殴らねえのか」
 「……殴ったって、気分は晴れないからね」

 僕は、聡の肩から手を離す。
 そして、小さな声で「いつから気づいてた?」と聞く。

 聡は、小さな声で「結構前」なんて曖昧な返事をする。

 そんな聡にいらつきを隠せない僕は、聡を睨む。
 しかし、聡は目を合わせて、苦笑いをこぼす。
 そんな聡を見て、僕は肩をすくめた。

 「言う気ないな」
 「お前なら言わずともわかると思うから」
 「言えない、じゃなくて、言いたくない、んだな」
 「悪いとは思ってるよ」
 「随分、くそ野郎に成り下がってたんだ」
 「ははっ、ひっでえ言われよう」

 そう苦笑いをしながら、聡はバッターボックスへと入り、バットを構える。

 そんな聡の背中に、「帰る」と言い、バッティングセンターを出た。

 夏にふさわしいくらいの暑い日差し。
 そんな中だってのに、腹が立つくらいに、僕のイラついた頭は良く回る。

 今まで、凛が聡に惚れた瞬間があっただろうか?

 そんな瞬間があったら、遊びにいく頻度は減ったり、むしろ聡を誘うだろう。
 凛が、聡を好きになる瞬間なんてなかった。

 ……僕とつき合っている間は。

 そこまで考えがいけば、答えは一つだった。
 凛は……僕とつき合う前から、聡が好きだったんだ。
 

 凛は、僕なんか好きじゃなかったんだ。



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