君の笑顔に涙する
「ねえ、きみは、ヒマワリがお好き?」
突然、後ろからかけられた言葉。
僕は、ゆっくりと振り返ると知らない女の子が満面の笑みをみせていた。
そう、僕の今の彼女、浅野凛だ。
ヒマワリ、というと今僕の横に咲いている花だ。
学校を囲うフェンス沿いに咲いており、僕はそんなフェンスを挟んで、歩道を歩いていた。このときは、たしか夏休みが始まったばかりだった。部活動で来ている生徒か、僕のように夏休みの期間だけに設けられている特別授業を受けに来ている生徒しかいなかった。時刻は、特別授業が終わり、ちょうど昼頃だった気がする。
僕は、チラリとヒマワリに目を向けて、答えた。
「……好きか嫌いかを言えるほど、ヒマワリを知らないよ」
「あっはは! 君らしい、答えだ! きみ、結城有くんだよね? 黒髪の短髪で、意外と大きな瞳に、黒ぶちメガネ」
このとき、僕は彼女のことが不審にしか思っていなかった。
僕は、彼女のことを知らない。でも、彼女は僕のことを知っているように話すのだ。
「よかったら、私と少しお散歩しませんか?」
そう僕に手を差し出す彼女。彼女の顔を、チラリと見る。彼女の表情は、変わっておらず、満面の笑みを浮かべている。
僕はゆっくりと、彼女の手のひらに手を置き、そっと微笑んだ。彼女は、一瞬目をまん丸にしたけど、すぐに、ニッと笑ってみせた。
どうして、こんな行動をとったのか。
あのときは、わからなかったけど、今なら答えはわかる。
陳腐かもしれないけれど、彼女の笑顔に、僕は魅了されてしまったのだ。