君の笑顔に涙する
「じゃあ、じゃあ……凛は、私の事……っ」
「……はい。凛は、美佐子さんの事、本当に好きだったんです」
僕のことは……。
僕は、ギュッと拳を握る。
そんな僕に気づいたのか、美佐子さんは「有、くん……?」と小さな声を出す。
「美佐子さん……」言って、いいのだろうか。
言ったら、自分に同情して欲しいとは、思われないだろうか。
きっと、美佐子さんを困らせる。頭ではわかっていたけど、僕の口は止まらなかった。
「……美佐子さん、僕は……凛は、僕のこと、覚えてたんです」
一瞬で、リビングが静かになった。
僕はゆっくりと顔をあげると、美佐子さんの表情が視界に入る。
美佐子さんの表情は、悲しそうな、寂しそうな、そして……申し訳なさそうな、そんな表情をしていた。そんな顔を見ていられなくて、僕はまた下を向く。すると、僕に影が覆い被さった。背中には、小さく温かい両手が。小さな手が、僕の背中を、ゆっくりと一定の間隔で、上下させる。
「辛かったね」
優しく甘い声が、凛にそっくりだと思った。
その声に、目頭が熱くなるのを感じた。
美佐子さんは、僕を優しく包みながら、ゆっくりと声をかける。
「言いづらいよね、ごめんね。ごめんね、言わせて……」
「い、え……」
「有くん、良いのよ、泣いても」
その言葉で、僕の瞳からは涙が溢れ出した。
今までためていたのか、僕の涙は止まる事はない。
美佐子さんの手が心地よいのも、涙を止めれない要因の一つだった。
「……有くん、凛には……会いたくない?」
「……本当の凛は、僕に来て欲しくないと思います……」
「……今の凛は、あなたに会いたがってるわ」
僕は思わず顔を上げた。
美佐子さんはゆっくりと離れ、ソファに腰を下ろす。
「凛がね、最近来てくれないって……寂しそうにしてたの」
「……っ」
「あなたには、とてもとても辛いことだってわかってる。だけど、今の凛の気持ちも知って欲しい。……こんなこと伝えるなんて、あなたを傷つけてるのもわかってるわ。でもね……凛のことを、本当に好きになってくれたあなただから、凛に会って欲しいの」
「……」
「あなたが凛をどれだけ好きかは、会った時からわかってるわ。……凛に会うかどうかは、あなたが決めなさい。あなたの決めたことだったら、私も納得できるから」
「……はい」
「長いことお邪魔しちゃったわね。コーヒーごちそうさま。また、会いましょうね」
美佐子さんは、そうふわりと笑った。
その笑顔があまりにも優しくて、僕は涙が出そうになった。