君の笑顔に涙する
八月に入って、僕は相変わらず凛がいる病院には行けず、学校で特別授業を受けていた。先生の説明を聞き流しながら、僕はただ窓から校庭を眺めていた。校庭では、サッカー部が練習をしていて、男子の声が飛び交っている。中にはもちろん聡もいて、コートの真ん中で指示を出していて、チームメイトの中でも一番声をだして、一番動いているように見えた。
今、こうやって思うと、凛が聡を好きになる理由はよくわかる。
コートの周りには、女の子がたくさんいて、黄色い声をあげている。ほとんどが聡を応援していて、聡も女の子に手を振ったりしている。ああいう、人当たりの良さは、聡の長所であり、モテるところなのだろう。きっと、凛も聡のああいう所に惚れたのだ。
思えば、凛が僕を好きになるところなんてどこもない。
僕は小さくため息をついた。同時に、先生の「今日はここまで」という言葉がきこえ、僕は立ち上がった。
下駄箱で靴に履き替えていると、「ゆーう」という、よく知った声が。僕は視線を向けると、聡がニッと笑って立っていた。
「よっ、今日も優等生?」
「……部活は? もう終わったの?」
「まーな。一緒に帰ろうぜ?」
「……」
正直気まずい。
最近、聡から連絡はなかったし、僕も連絡をしなかった。
たぶん、聡も気まずかったのだろう。
でもこうやっていつもの笑顔を見せる聡は、きっと僕に言いたいことがあるのだ。
「……早く着替えて来いよ。暑いから早く帰りたい」
「ははっ」
聡はそう笑って、汗で濡れた髪をかき上げながら廊下を駆けて行った。
十分程経つと、着替えた聡が下駄箱へとやってきた。
聡と並んで学校を出ると、聡は「あーーー」と上を見上げながら何かを言いたげだ。
「なんだよ」
「……あのさ、浅野ちゃんには会ったのか?」
「……会えないよ」
「ふーん。お前、浅野ちゃんに会いたくないの?」
「……何が言いたいんだよ」
「……俺さ昨日、浅野ちゃんの所に行ったよ」
聡の言葉に、僕は思わず足を止めた。
聡も僕より数歩離れた所で立ち止まり、笑って振り返る。
「元気なかったよ。んで、一番最初に言われたのが、『今日は有いないの?』……だってよ」
「……」
「話はこれだけ。あとはどうするか、お前が決めろよ。……それと、今日は誰も見舞いには来ないらしい」
聡はそう行って、一人で歩き出した。
「……お前に言われたって」
凛は本当は聡が好きなんだ。
なのに、僕を待ってるなんて……信じられるわけない。
『お前、浅野ちゃんに会いたくないの?』
聡の言葉を思い出し、僕はギュッと拳を握りしめ、ゆっくりと歩き出した。