君の笑顔に涙する

 ……二週間ぶりくらい、か。
 目の前の白い扉が、少しだけ懐かしく感じる。

 正直、この扉を開けるのが怖い。凛がどんな顔で僕を迎えてくれるのか。前みたいに笑顔で迎えてくれても、僕は素直にそれを喜べるのか。僕は怖くて仕方ない。ゆっくりと上げた手が震えているのが、自分でもわかる。背中に汗が流れているのに、寒く感じる。

 僕は、ゆっくりと息を吐いた。
 そしてギュッと目を閉じたまま、ゆっくりと扉を開ける。

 すると、中から「……有?」と、甘く柔らかい、僕の好きな声が聞こえた。

 その声は、どこか嬉しそうで、どこか……泣きそうな声だった。
 ゆっくりと目を開くと、目をまん丸にした凛が座っていた。

 「……えっと、久しぶり、凛」

 僕は、精一杯そう、笑ってみせた。す
 ると、凛の瞳から静かに涙が流れる。
 その涙に、僕は驚きが隠せず、静かに近寄った。

 「うれっしい……っ、もうっ、来てくれないかとっ、思った……っ」
 「……っ」

 この言葉が、今の凛の言葉だ。

 記憶を無くしてしまっている、凛の言葉だ。

 記憶を戻したら……きっと、こんな言葉を言ってはくれない。

 聡を待つのだろう。

 それがわかっていても、僕は……この言葉が、嬉しくてたまらなかった。

 聡の言葉を思い出す。

 『お前、浅野ちゃんに会いたくないの?』

 会いたいさ。

 ずっと、ずっと、会うのが怖くて、会いたかった。

 凛が僕を本当は好きじゃなくても、僕は凛が好きなんだって……嫌でも思い知らされた。

 「……凛」

 「な、に……?」

 凛が僕を好きじゃなくても……。

 「僕は、凛が好きだよ」

 今の凛に、僕を好きになってもらおう。


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