君の笑顔に涙する
凛とは、お昼過ぎに駅で待ち合わせをした。
腕時計を見ると、もうすぐ待ち合わせの14時になろうとしている。
「有」
大好きな声がきこえ、僕は顔を上げた。
目の前には、デニム素材のスカートに透け素材の白いブラウスを着た凛が立っていた。そして、左腕はギブスをつけていた。
「ごめん、待った?」
「ううん、全然。じゃあ、行こうか」
僕がそう言って歩き出すと、後ろから手が伸びてきて、僕の手に触れた。
「え……?」
「一応……デート、でしょ?」
少しだけ頬を赤くして言う凛に、僕は思わず目を逸らした。
自分の顔も熱くなるのを感じる。
僕は凛の小さな手を、そっと握った。
すると、凛は嬉しそうに笑った。
プラネタリウムは、駅からバスに乗って十分くらいにある市の科学館のプラネタリウムに行く事にした。都内は人が多いため、静かな病院から都内に行ったら、きっと凛はすぐに疲れてしまうだろうと思ったからだ。
「楽しみだなあ……」
バスに揺られていると、凛が窓から外を眺めながらそう言った。
「……そう?」
「うん! 有は楽しみじゃないの?」
「……いや、楽しみだよ」
「ほんとにー?」
僕の顔を覗き込む凛に、僕は精一杯の笑顔で「ほんとだよ」と返した。そう返したとき、目的地へと着き、凛と一緒にバスから降りる。夏休みだけど、市の科学館にお客さんは数えるくらいしかいない。僕は凛の分もチケットを買い、ドーム内に入る。席は一番後ろの席だ。
「わー……、すごい! プラネタリウムって、こんな感じなんだ」
「四十分くらいあるらしいよ」
「長いね。寝ちゃわないかな」
凛がそう笑ったとき、ドーム内が次第に暗くなっていく。そして、ゆっくりと音楽が流れ、心地いいナレーターの声が響き始めた。
ナレーターが話す星の説明を、僕は最初は真面目に聞いていたのだけれど、途中で集中力が切れてしまった。薄暗い中、穏やかなナレーターの声は、眠気を誘う。僕はチラリと左に座る凛の方を見ると、凛は目を輝かせながら上を向いていた。
……寝ちゃわないかな、なんて言ってたのに。
僕は小さく笑いを零し、再び上を見上げた。
すると、左の指先が少しだけ凛の指先に触れた。その温もりにドキリとし、凛の方に視線を移すと、凛とばっちり目が合い、すぐに逸らした。けれど、触れた指先はゆっくりと絡めて。ぎゅっと、優しく握った。凛の手は温かく、僕の手が冷たくなっているのがバレバレで、僕は恥ずかしくてたまらなかった。
……もしも、凛の記憶が戻ったら……こうして、二人でどこかに出かけることは出来るのだろうか。
そんなことを想像しては、僕はすぐにその考えを打ち消した。