君の笑顔に涙する
翌日、学校に行き、特別講義の帰り、昇降口に聡が立っていた。
「よっ」
「……今日は部活?」
「おう、さっき終わった。浅野ちゃんのとこに行くんだろ? 駅まで一緒に行くよ」
「……うん」
『浅野ちゃん』──わざとらしい。そう思った。
駅へと向う間、ただただ聡が部活の事をずっと話していた。練習のこと、試合のこと、可愛い女の子が応援に来ていたこと。
曖昧に相づちを打ちながら聞いていると、聡が「なんか言いたい事、あんの?」と僕の顔を覗き込む。
「……なに、急に」
「そんな顔してるから」
「……じゃあ、一つ。お前、よく凛のところに行ってんの?」
「べつに。週に二回くらい」
週に二回で、『今日も来てくれたんだ』なんて言うだろうか。
少しだけ腑に落ちなかったが、口には出さずに聡の言葉を聞いた。
「浅野ちゃんがさ、良く話すよ、お前の事」
「僕?」
「変な人だって」
「……」
変な人って……。
褒められているのか、いないのか全くわからない。全然いい気分はしない。
そういえば、と僕は凛のある言葉を思い出す。
『ふふ、ほんと有って変なの』
凛が記憶を無くす前に、言っていた言葉だ。
凛が確かに、言っていた。僕の頭の中で、凛との会話が鮮明に蘇る。
『ふふっ、ほんと有って変なの』
『……それってさ、褒めてないよね』
『褒めてるよ。私、有のそういうところ、魅力だと思うな』
そうだ、凛は……確かに、そう言っていた。
「有? どうした?」
「……僕の、魅力なんだって」
「はあ?」
「……なあ聡、僕はやっぱ凛が好きなんだ」
僕がそう言うと、聡は一瞬驚いた顔をして。
そしてすぐに、「知ってるよ」と苦笑いをこぼした。
「んで、何が言いたいんだよ」
「……お前は?」
「……」
「一度も、聞いた事なかったからさ」
「……好きだよ、友人の彼女として」
聡の曖昧な答えに、少しムカついた。
けれど、安心した自分の方が、ずっと大きかった。
僕が言った「そっか」は、とても情けない声だった。