君の笑顔に涙する
放課後になり、僕と凛は図書室へと向かう。
高校生になると、試験前以外は放課後に図書室に行く生徒は少ない。
図書委員もいないといけないのだが、大抵がサボっていて、使用する生徒が自ら借りる手続きをするのが、暗黙のルールみたいになっている。そんな図書室は、クーラーもあり、綺麗で、静かなため、毎日のようにここに来ている。窓側の、一番奥の4人テーブルが、僕等の定位置。窓側に凛が座り、その正面に僕が座る。基本、僕は本を読んでいて、凛は課題をやっているのが日課だ。会話もあまりなく、静かなこの空気が僕はとても心地いい。
「ねえ、午後のね、現文の授業でおもしろいことしたの」
僕が本を読んでいると、凛がそう言った。
「へえ、なにしたの?」
「好きなものと、嫌いなものを書くの」
「……どういうこと?」
僕がそう尋ねると、凛は鞄の中からピンク色のファイルを取り出し、一枚のB5サイズの紙を僕に差し出す。そのとき、テーブルに初めて目をむけたことに気づき、テーブルに置かれている凛のノートには数字が書かれていた。
「……数学勉強してるのに、現文のこと思い出したの?」
「なによ、バカにしてる?」
「いやっ、おもしろいなって。いいの? 現文の話して」
数学の勉強の邪魔になるんじゃないか、そういう意味を込めて言った。
すると、凛はすぐに「いいの、こっちの話がしたいの」と言って、一枚の紙を僕の顔の前へと出す。
そんな凛に、僕は苦笑いし、紙を受け取る。
紙の向きは縦に使用されていて、真ん中に一本の線が書かれていた。そして、上の左側に『好き』、右側に『嫌い』と書かれている。
『好き』の下には『ヒマワリ』『イチゴ』『空』『太陽』『海』『お寿司』『パフェ』と、『嫌い』の下には、『ピーマン』『ネギ』『虫』『暗いところ』『ゴキブリ』『勉強』『運動』と、縦に七つずつ順に書かれていた。
「これ、一時間かけてやったの?」
「まさか! 授業が早めに終わったから、残り時間これやれーって。ルールがあってね、最初は嫌いなものを書いて、その後に好きなものをかくの。おもしろいでしょ?」
「おもしろいの、これ」
「おもしろいよ。ねえ、有もやってよ。有の好きと嫌い、知りたいな」
「……凛ほど豊富じゃないから、僕がやってもおもしろくないよ」
「いいの。はい、ルーズリーフあげるから」
そう無理矢理、凛にルーズリーフを渡され、僕は渋々受け取った。
そして、適当に真ん中に線を引き、右に『好き』、左に『嫌い』と書く。
「時間は、三分! よーい、スタート!」
楽しそうにそう言う凛に、『めんどくさい』なんて、もちろん言えなくて。
僕は、小さく苦笑いして、考え始めた。