裏切り者の君へ
だからいい。
わたし雪也が寝てしまった後、そっと手袋を外して雪也に触れてみた。
寝ている人に触れるとその人が見ている夢の映像が見える。
雪也の言葉を疑ったわけじゃない。
でも、うん、やっぱりまた確かめたかったんだ。
雪也の言った言葉が本当かどうか。
もしかしたら雪也自身も知らない雪也がいるかも知れない。
そしてそれが雪也がわたしを抱けない原因になってるのかも知れないと。
もしそうだとしたら何かできることがあるかも知れない。
雪也の額にそっと手を当てた。
わたしが見えた。
高校生の時のわたしだった。
わたしは笑っていた。
窓際の席に座って友だちと談笑しているわたしだった。
額に触れた手から伝わる雪也の電気信号がわたしの胸を締めつけた。
いっぱい、いっぱいの好きがそこにあった。
わたしは声を出さずにすすり泣いた。
どうしてわたしは雪也を信じられないのだろうか。
こんなにも愛されているのに。
どうして抱いてもらえないだけで、こんなにも不安になるのだろうか。
わたしは相手の心が見える能力を持っているのに。
2度雪也を覗いてそこには愛しかないのに。
雪也の心が見えているのに、見えているものをなぜ信じられないのか。
これ以上わたしは何を望むのか。