裏切り者の君へ
将樹はベッドから起き上がると裸のままソファーに座ってタバコに火をつけた。
「あれタバコ吸うんだっけ?」
來夢はさっきまで自分の中で荒れ狂っていたとは思えない大人しく萎んでしまった将樹の性器を眺めた。
「ずっと止めてたけど最近また吸い始めた」
來夢はなんで?と訊くことも、ふぅんと相槌を打つこともなく寝返りを打った。
「雪也ってだれ?」
ぽんっと、将樹は來夢の背中に向かって言葉を投げた。
來夢が応えないでいると将樹は次々に質問を投げてくる。
「もしかして彼氏?それともまさか旦那とか?まじ結婚とかしてたりして」
來夢は起き上がった。
「結婚なんかしてないよ、それよりもう1回しようよ」
「そっか、じゃああのさ、今までなんとなく体だけの関係できたけど、ここいらではっきりさせようよ」
「はっきりさせようって何を?」
「ちゃんと付き合うなら付き合おうよ」
「別にこのままでいいじゃない、男の人ってみんなそういうの好きでしょ」
「男をみんなでひとくくりにすんな」
「タバコ消して臭い」
來夢はベッドに潜った。
ため息が聞こえた。
ベッドの端が沈んで将樹が座ったのが分かった。
「タバコ消したよ、ねぇ顔出してよ」
将樹は來夢の腰の辺りをぽんぽんと撫でるように叩いた。
「俺は最初から遊びのつもりなんてなかったよ、最初からいいなって思ってた。あの日俺たちが初めて話した日、出てくるの待ってた。だからジムの会員証を落としても落とさなくても俺声をかけてた」
來夢は顔を出した。
「そうだったんだ」
「うん、だから」
「わたしはこのままがいい」
将樹は少しの間黙った。
「それってその男が理由?そのいつでも絶対外さない手袋とその男ってなんか関係してんの?」
「雪也とこの手は関係ないよ」
「今さらだけどさ、なんでいつも手袋してんの?」
來夢は手を広げて将樹の顔に当てるような仕草をした。
片目を閉じる。