裏切り者の君へ

「素手で触るとその人の心が読める」

 将樹は鼻で笑った。

「ほんとだよ」

「じゃあ俺の心を読んでよ、さっき言ったこと全部ほんとだから」

 将樹は自分に向けられた來夢の手を掴んで手袋を外そうとした。

 いやぁ!

  來夢は叫んだ。

「ご、ごめん」

 将樹は狼狽する。

「2度とこんなことしないで」

「わ、分かった、ごめん」

 2人の間に気まずい空気が流れる。

「雪也って髪長い?」

 來夢は応えなかった。

 それなのに将樹はそっか、と頷いた。

 來夢は将樹の髪に手を伸ばしかけ慌てて引っ込めた。

「しないんだったらもう帰るけどわたし」

 将樹はタバコを灰皿に押し付けると笑いながら來夢に覆いかぶさってきた。

「來夢って俺に負けず劣らず淫乱だよな」

 來夢は目を閉じ、将樹の首に腕を回した。




 将樹と出会ってから、來夢は狂ったように将樹の体を求めた。

 來夢の中の雪也が輝けば輝くほど來夢の体は将樹を欲した。

 まるで体が心に抗っているように思えた。

 体だけが1度も自分を抱かなかった雪也に復讐しているかのようだった。

 最初は……。

 将樹との回数を重ねる毎に來夢は自分の中にある感情が生まれつつあることに気づいた。

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