裏切り者の君へ
それを來夢は情と名づけた。
決して恋でもましてや愛でもない。
体を重ねれば情が湧くのは当然のことだ。
恋が愛に変わることがあっても、情は永遠に情のままだ。
でも、だとしたら、情事の後に訪れるこの感覚はなんだろう。
気だるく、とろりとしたぬるま湯に使っているような心地よい充足感。
以前に自分で自分を慰めた後の虚しさとは全く違うこの感覚。
そしてそれは來夢自身が無視できないほどだんだんと大きくなっていった。
それと同時に來夢が作りあげた美しいだけの雪也の思い出が再び陰りを帯びてくる。
來夢は戸惑った。
情と名づけた将樹への感情が他のものに変化しそうで。
雪也が死んで3年。
もうそろそろいいのではないか?雪也という呪縛から自分を解放してあげても。
それでもなぜか來夢にそうさせない何かがあった。
このまま雪也を置いて先に行ってはいけない気がした。
それを來夢はまだ自分の中に残る雪也への愛だと思った。
でもそれだけではなかった。
トカゲの尻尾が、真っ黒な気配だけ残したそれが來夢に何かを強く訴えかけていた。