裏切り者の君へ
『なにしてんの?こんなとこでひとりで』って訊いてきたから『退屈してんの』って応えると『こんなふうにひとりで立ってると変な男にナンパされるよ』って言うんだ。
あたしおかしくなって『これはナンパじゃなの?』って聞くと、『ナンパなんかじゃないよ』って笑ってた。
『ナンパじゃないならなんであたしに話しかけてきたの?』って訊いたら『心配だから』って言うんだ。
『女の子がこんな夜中にひとりで突っ立ってるのが心配だから』って。
『お兄さん変な人だね』って言ったら『君が思ってるほど世の中悪い奴ばっかりじゃないよ』だって。
「ばっかみたい」
少女は大声を出した。
周りにいた客が少女の方をちらりと見る。
「ばっかみたいって、あたしその時思った。君が思ってるほど世の中悪い奴ばっかりじゃないよって、どんだけおめでたい奴なんだってね。あたしより年上なのに全然世の中のこと分かってないなって。逆に言ってやりたかったよ、世の中お兄さんが思ってるほどいい奴ばっかりじゃないよって」
少女はふんと鼻で笑った。
「でもあなたを気にかけてくれた人は雪也だけじゃないでしょ、もうひとりの男の人だって」
來夢が言うと、少女の皮肉めいた顔が急に無表情になった。
少女はまた話し出した。
歳を訊かれたからまたサバ読んだらお姉さんの彼は信じなかったよ。
あたしをじっと見て『嘘だね、もっと全然若い』って言うんだ。
その時あたしようやく気づいたんだ。
あ、この人はあたしをそういう目で見てないって。
そのへんで店の中から男が出て来たんだと思う。
お姉さんの彼がじっと男を見てたのを覚えてる。
「それで?」
少女が話すのをやめたので來夢は先を促す。
「それだけだよ」
「それだけって」
「だからお姉さんのおめでたい彼の話」
少女は面白そうに來夢の反応を伺う。
「あたしをヤッたのはね、3人の男たちからあたしを救ってくれた男だよ」
少女の顔は笑っていた。