裏切り者の君へ
「あなたは?」
來夢が訊ねると女は応えた。
「わたしの娘はそれで廃人のようになってしまいましたから」
最近よくニュースで耳にするストーカー事件の被害者が女の娘だった。
「被害者が死んだらニュースになりますよ、でもそれ以外は誰にも知られることなく処理されていくんですよ、いーぱいあるんですよ、そういうの」
何度警察に危機を訴えても警察はまともに取り合ってくれなかったという。
それどころか被害妄想じゃないかと、逆に名誉毀損で訴えられるとまで言われたそうだ。
「世の中はね、正義じゃないんですよ」
女の最後の言葉と少女の言葉が重なった。
『お姉さん、世の中はね悪い奴の方が多いんだよ』
來夢は自分が世の中のことを何も知らない馬鹿に思えた。
そして何もできない非力な子どもだった。
あの少女の方がよっぽど逞しく生きている。
もう警察はあてにならない。
でもここで諦めるわけにはいかない。
こうなったら自分で雪也を殺した犯人を探してやる。
このまま雪也を少女強姦犯の自殺者にさせるものか。
誰もやってくれないのなら自分が雪也の汚名を晴らす。
雪也が來夢に語った言葉たちは真実だったのだ。
雪也との思い出を汚すものがなくなった今、來夢が怯えるものは何もない。