裏切り者の君へ
次の日來夢は事件があったビルの近くのドラックストアーに行ってみた。
幸いビルの周辺にそれらしきドラックストアーは1軒しかなかった。
もしかしたらあの夜働いていた店員が犯人を覚えているかも知れない。
だが來夢の期待はあっけなく打ち砕かれた。
あの夜働いていた店員はとっくに店を辞めていた、というより店員たちはバイトも社員も含め皆働き出して3年以内の新しい者たちばかりだった。
店長でさえ今年から新しく変わったという。
そして誰も3年前の雪也の事件を知らなかった。
「あのすみません、では3年前ここで働いていた人に連絡を取ることはできませんか?」
來夢は食い下がった。
「そんなこと言われてもねぇ」
レジの中にいる男女の店員は目を見合わせる。
「コンチワー」
台車にダンボール箱をいくつも乗せた男が入ってきた。
「あ、すみません、じゃまた」
男の店員はそそくさと台車を押す男と一緒に奥に引っ込んでしまい、女の方は來夢に背を向け棚に並べた薬の整理を始めた。
店を出ると前に大きな運送会社のトラックが止まっていて、中から若いアイドルグループの歌声が聞こえてきた。
急に降り出した大粒の雨に人々は慌てふためき雨宿りできそうなところを探して駆け込む。
來夢のいるカフェにも服に水玉のシミを作った人々が何人か入ってきた。
テーブルに置いた電話が震えた。画面に名前と文字が表示される。
——急に雨降ってきた。ちょっと遅れる。
來夢は電話を手に取ることをせず遠目に文字を読むとまた窓の外を見た。
さっきまで目を細めるほど太陽の光が眩しかったのに今は薄暗く、道を叩きつけるようにして激しい雨が降っている。
しばらく眺めていると通りの向こうに傘をさした男が歩いてくるのが見えた。
どこにでも売っている透明のコンビニの傘が水飛沫で白く霞む。