裏切り者の君へ
「それって」
「警察に行ったよ、でも駄目だった、ぜーんぜん。だからわたし自分で見つけることにしたんだ、雪也を殺した男を」
ちょっと待ってと、将樹は腕組みをししばらくそのまま動かない。
來夢は氷だけになったアイスコーヒーをストローですすりながら窓の外を見た。
激しかった雨は少し和らいだようだった。
ガラスに映った将樹が顔を上げた。
「分かった、いやよく分かってないけど、分かった。で、それと俺ともう会わないのはなんの関係があるわけ?」
「だって」
「その彼は死んだんだろ」
「そうだよ、でも」
少女から話を聞かされたあの時、静かに涙を流したあの時、來夢は気づいたのだ。
自分がまだ深く雪也を愛していることを。
「まだ彼のことを愛しているとでも?だから俺と寝るのに罪悪感を感じるとか?」
「……」
将樹は肩で息をついた。
沈黙が続いた。
雨は止んだようだったが空は明るくならずにそのまま夜になっていた。
「犯人を探すったってひとりでどうやって探すんだよ」
來夢は手袋を外した。
「わたしにはこの手がある」
「それで手当たりしだい男を触っていくって?」
将樹はわざとらしく大きなため息をつく。
「分かった、俺も手伝うよ」
「え?」
「だから俺もその犯人探しを手伝うってこと。女ひとりじゃ危ないだろ」
「将樹……」
「駄目だって言われても手伝う」
來夢は承諾しなかった。
「ううん、これはわたしひとりでやる」
來夢の決意は固かった。
「じゃあ、とりあえず俺たちの関係は保留にしてくれよ、別に寝なくてもいい。せめてときどきこうやって会って欲しい。じゃないと心配で仕方ないよ」
來夢は渋ったが自分に何かあった時にこのことを知っている人間がいた方がいいかも知れないと思った。
「分かった」
來夢は頷いた。