裏切り者の君へ

 そして雪也が來夢に見せた映像がいかに美しいものだったかを改めて思い知らされた。

 何度も心が締めつけられ泣きそうになった。

 初日家に帰った來夢はそのままベッドに倒れた。

 次に目を開けた時はすでに朝になっていた。

 重い体を引きずるようにしてなんとかまたビラ配りのバイトに向かった。

 1ヶ月もすると次第に慣れてきた。

 感情移入せずに事務的に流してしまえばいいのだ。

 來夢には自信があった。

 少女を泥酔させ犯し、なおかつ雪也まで殺した男なのだ。
 
 そんな男の映像を見逃すはずはない。

 そんな極悪非道で凶暴な男が見せる映像は他の人とは全く違うはずだ。

 異常な映像に違いない。



 将樹は渋い顔をして頬づえをついた。

 デザートでオーダーしたニューヨークスタイルチーズケーキもまだ半分ほど残っている。

「なんだか感心しないなぁ、そのやり方っていうかそのバイト」

「そう?不特定多数の男性に触れるには1番いいと思うけど、ただ触れるのが一瞬だから分かりにくいけど、もう少し長くゆっくり触れられる方がいいんだけどな。

 でもホステスやったりいかがわしい店でバイトするのもねぇ」

「いかがわしいってなんだよ」

「耳かきとか?」

将樹は來夢の言葉に絶句した。

「死んだ元カレが泣くぞ」

「泣かないよ、雪也は」

 冷房の効きすぎで鳥肌が立った二の腕を來夢はさすった。


 あの時もこんなふうに寒かった。

 古い喫茶店のちょうどエアコンの前の席は冷え冷えとしていた。

 少し曇った窓ガラスの向こうに風俗店が立ち並んでいるのが見えた。

『ねぇ雪也、わたしがああいう店で働き出したりしたらどうする?それとも働いたことがあるとか言ったらどうする?別れる?』
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