裏切り者の君へ
「そういえばこの前のんちゃんが連れてた子可愛かったよなぁ、あれ高校生って言ってたけどぜったいまだ中学生だよな」
「処女だぁ〜」
「処女最高」
來夢は2人の男を睨むように盗み見る。
そういうあんたらも童貞に見えるよ。
心の中で悪態をついた。
2人とも絵に描いたようなおたくではないが、清潔感がない。
來夢の心中を察したのか将樹がラインを送ってきた。
——まぁ、まぁ、まぁ。
「なにがまぁ、まぁ、まぁよ」
将樹が倒れかかってくるようにして耳打ちをする。
「俺は処女興味ない、男がみんなそうなわけじゃないよ」
将樹は前にもそんなことを言った。
男をみんな一緒にすんな、みたいな。
そんなことは分かっている。
でもときどき男は全て同じように思える時もある。
雪也を除いて。
雪也だけは來夢にとっていつでも特別だった。
のんちゃん、という名前が聞こえてきて、聞きたくないがまた男2人の会話に耳を澄ます。
「のんちゃんってさ、前に処女だと思ってヤッた女の子が処女じゃなかったって言ってすっげぇ、怒ってたよな」
「そうそう何度かあったよな。そういう時のしげちゃんってちょっとヤバくねぇ?」
「ヤバイヤバイ、人が変わるっていうか、体だけ大人になったキレる子どもみたいなさ」
そうだよあんたらの知ってるのんちゃんはキレるどころじゃなくて殺人犯なんだよ。
男2人にそう教えてやりたかった。
「あ、噂をすればだ」
男のひとりが出入り口の方を見ながら片手を軽く上げた。
反射的に來夢も振り返る。
あの男だった。
どこにでもいそうな平凡な男。
これといった特徴がない、それが特徴のような男。
來夢があまりにも男をじっと見てしまったからだろうか、男と目が合った。
が、それも一瞬で男の視線はすぐに奥のテーブル席に向けられる。