裏切り者の君へ

 時刻表を見ると次の電車まで15分ほどある。

 並んでベンチに座った。

「次はどうすんの?」

 将樹はコンビニで買った缶コーヒーを袋から取り出し、1つを來夢に手渡す。

「しばらく男を見張ってみる」

 コーヒーを飲む将樹の喉が鳴る。

「もしかしたらさ、あいつ余罪みたいのがあるかもな、それかまた事件を起こすかも知んないし、新しい事件であいつを捕まえることができたら、前の事件もひっくり返すことができるんじゃないかな」
 
 來夢は将樹の肩を掴んだ。

「将樹頭いい!」

 将樹は來夢の顔を見つめニッと口の端を上げた。

「今日やっといい顔をした」

「なに?」

「ん?今日やっと明るい顔をしたなって思って」

 來夢は前に伸ばした自分の足先を左右に揺らす。

 車のワイパーのように左足が右足を追いかけ、右足が左足を追いかける。

「ありがとうね将樹、今日1日付き合ってくれて」

「今日だけじゃなくて今度も付き合うよ」

「うん……」

 特急電車が通過することを伝えるアナウンスががらんとしたホームに流れる。 

 耳をつんざくような騒音と突風と共に電車が通り過ぎていく。

 生温かい風が顔を煽り、來夢の前髪を揺らした。

「どうして将樹はわたしにこんなに良くしてくれんの?」

「好きだからに決まってんじゃん」

「でもわたしはまだ雪也を」

「だって死んでんじゃん」

  またアナウンスが流れる。

 反対側のホームに電車が滑り込む。

 空気の漏れる音と共にドアが開閉し、ゆっくりと電車はホームを離れていく。

ホームにまばらに降り立った人たちが改札の方へと集まっていく。

「その元カレに嫉妬しないわけじゃないけどさ、それに」

「それに?」

「可哀想な男だよな、死んじまって」

 向かいのホームには誰もいなくなった。

 いなくなったはずのホームに、

 男が1人立っていた。

 男は來夢を見ていた。 

 まっすぐに。
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