裏切り者の君へ
男は嘘をついているようには見えなかった。
男は犯人じゃないのか?來夢の見たあの映像は、少女と雪也の顔はなんだったのだ?
「どっからどうなって俺を犯人だと疑ってんのかは知らねえけどさ、本当にあんたのその雪也って男が犯人じゃないんだったら、それこそ真犯人を見つけてやらねえと、死んだそいつが報われないだろうが」
男は立ち上がるとまだ尻もちをついたままの來夢に手を差し伸べた。
來夢はその手を無視する。
まだ男の言うことを全て信じた訳ではないが、体から力が抜け立ち上がることがない。
「あと多分だけど俺見たんだよなあの夜、あんたの彼と被害者の女の子を、だから余計記憶に残ってるっていうか」
來夢は飛び起きた。
「その時のことを詳しく教えて」
男は運送会社の配達員だった。
あの夜、少女と雪也が立ち話をしていたドラックストアーに荷物を運び入れる時に2人を見たのだと男は言った。
「女の子の方が俺のタイプだったからさ」
次の日にまた仕事で同じ店に行った時に店員から事件のことを聞いたと言う。
「なんかちょっと不思議だったんだよな、あんたの彼?そういうことするように見えなかったっていうかさ、俺たち同類はわかるんだよな、なんか同じ匂いがするっていうか」
ここでもまた、雪也が少女を犯したのではないという事実を証明する言葉が出てきた。來夢の胸が熱くなる。
「ねぇ、店の中にあんたと同類の男がいなかった?犯人の男がその時店の中にいたの、ねえ、見なかった?見たよね、同類の男がいたはず」
來夢の勢いに男は後ずさる。
「同類同類って失礼だな。俺は少女趣味でも強姦魔なんかじゃねえよ、一緒にすんな。それに知んねぇよ、店の中に誰がいたなんか覚えてねぇよ」
「ちょっと手を貸して」
男は不審な顔をしながらも來夢に手を突き出した。
來夢ははめていた手袋を外すと男の手に触れた。