裏切り者の君へ
手が痺れる。
フラッシュのように白い光が來夢の脳裏をかすめる。
夜のドラックストアーの煌々とした灯り、大きな荷物、短いスカートから伸びる細い足、幼い顔に化粧を施したあの少女の顔、少女に話しかけている男の横顔、雪也!明るい店内、薄暗い倉庫、大きなトラックの窓から見える街のネオン。
それ以上の雪也と少女の映像は見えなかった。
來夢が再び店内の記憶へと意識を集中させようとした時、映像は途切れた。
男が來夢の手を振り払ったのだ。
「な、なんだよあんた気持ち悪いな」
來夢はまた男の手をつかもうとする。
男は両手を後ろへ隠した。
「なんか思い出したら教えてやるよ」
「本当に?」
「ああ」
男は面倒くさそうに頷き、その後多分思いださねぇけどな、と早口で呟いた。
男の名前は佐藤実といった。
「やっぱ女は幼いのに限るな」
男はそう捨てセリフを吐いた。
次の日将樹にこのことを話すと将樹はさしていた傘を投げ捨てて來夢を抱きしめた。
道行く人が2人を横目に見ながら通り過ぎて行く。
「よかった來夢になにもなくて」
細い銀色の雨が将樹の肩を濡らしていた。
結局犯人探しはふりだしに戻ってしまった。
佐藤実から連絡もこない。
來夢はベッドにごろんと寝転んだ。
もし佐藤実が犯人を見ていたとしても目に入ったぐらいでは3年前の記憶だ、來夢が手を触れたところで映像が出てこない可能性もある。
やはり頼りの綱はあの少女なのだ。
でもあの日あれ以上來夢は少女を問い詰めることはできなかった。
それに雪也だったら多分自分と同じことをしただろうと思う。
そして來夢は雪也がもういいよ、と言っているように思えた。