裏切り者の君へ

『ひとりで逝ってしまって、ごめん。一緒に死のうって約束したのに』

 來夢の体が脈打った。

 部屋の中を見回す。

「雪也?」

 自分でも馬鹿らしいと思った。

 でもそうせずにはいられなかった。

「雪也!」

 その時來夢の電話が鳴った。

  佐藤 実

  液晶画面に表示された文字。

 電話を取るなり佐藤実は一方的に話し出した。

『もしもし?俺思い出したよ、あの日ドラックストアーにひとり男がいたさ。それあんたと一緒にいた男だよ、すっげぇ酔っ払って赤い顔してたけど、間違いないあの男があの晩あそこにいたさ』

 セックスの途中人が変わったようになる将樹。

 その姿が來夢の脳裏で炸裂した。

 嘘。

 そんなことあるはずがない、嘘、嘘、嘘、嘘。

 頭が真っ白になった。

 何も考えられなくなった。

來夢はどうやって電話を切ったのか、どうやってキミエの家を出てきたのか覚えていない。

 気づくと知らない那覇市内をうろついていた。

 喉の渇きで我に返った。

 自動販売機で水を買う。

 ゴトンと鈍い音を立ててボトルが落ちてくる。

 喉を鳴らして水を飲んだ。

 思考が少しずつ戻ってくる。

 キミエはきっと本物のユタだ。

 あれは雪也だった。

「雪也……」

 來夢は両手で顔を覆いすすり泣いた。

 あのとき一瞬でも雪也は來夢のそばにいたのだ。

 そう思うと胸が締め付けられた。

 雪也と佐藤実の証言。

 ビラ配りをしながら大勢の男たちの手に触れて回った自分。

 いつもそばにいた目の前の将樹に触れることをせずに。

 初めて将樹に雪也のことを話したのは、あの雨の日だった。

 久しぶりに会う将樹に別れ話をするためにカフェに呼び出した。

 そして将樹は自ら來夢の犯人探しを手伝いたいと名乗り出た。

 今考えれば不自然といえば不自然ではないか?

 あの時に将樹は初めて來夢が雪也の恋人だったと知ったのか?

 來夢の話を聞く将樹に普段と変わるところはなに1つなかった。

 ぞわりと全身に鳥肌が立つ。

 まさか最初から知っていてそれで來夢に近づいたのか?

 そう思うと出会い方も出来すぎているような気がしてくる。
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