裏切り者の君へ
いつしか母親に触れなくてもその愛を信じられるようになったとき、いつの間にか能力が消えていた。
來夢の初めて聞く話だった。
「わたしも母の愛に飢えているんだろうか」
來夢の言葉に叔母は寂しそうに微笑んだ。
「由美ちゃんは來夢ちゃんのことをそれはそれは愛してたわよ」
母との想い出は多くはないが、大事にされていた感はある。
それにもし自分が叔母と同じだったら、母が死んでしまった以上確かめるすべがないではないか。
とすれば來夢のこの能力は一生ついてまわることになる。
それに來夢の能力は大人になってからだ。
そのことを叔母に言うと、叔母は「そうねえ」と遠くを見た。
「もしかすると來夢ちゃんの能力はあの子を探すために……」
「え?」
「ん?」
「あの子を探すためにって何?」
「わたしそんなこと言った?」
「言ったよ、あの子って誰?」
「それより今日ユタはどうだった?すごい人だったでしょ、当たるって評判らしいから」
口に入れたスイカが喉を通らない。
「うん……」
「誰を呼び出してもらったの?由美ちゃん?」
來夢が応えないでいると叔母はそれ以上は訊いてこなかった。
何かを察してくれたようだった。
「叔母さん、もし、もしもだよ叔母さんの身近な人が叔母さんの大切な人を殺した人だったりしたらどうする?」
どうしたの急に、と言いながらも叔母は少し考え、「相手との関係によるかも」と応えた。
「え?」
「もしそれがわたしの親や子どもだったら、殺された相手より大切な人だったら、わたしは庇っちゃうかも知れない」
「……」
「來夢ちゃん」
叔母は來夢の心を探るような鋭い視線を向ける。
「その話とユタに会いに行ったのは何か関係があるの?」
來夢は慌てて首を横に振った。
「ううん全然、全然違うよ、そんなことあるわけないでしょ」
叔母は短くため息をついた。
「ならいいけど……」
叔母はそろそろ夕食の支度をすると言って台所へ消えた。
やっぱりこんなこと誰にも話せない。
それでも、もし叔母に今もその力があったらと思わなくもなかった。
誰かに頼りたかった。
でも誰にも頼れない。
自分でどうにかするしかない。
來夢は両手を握りしめた。
はっきりさせなければ。
この手で。