いつか、誰かの願いごと


「......遅い」


俺が今いるのは、例の願いが叶う丘とやらの麓。
空には、昼とは違い自己主張の控えめな、それでいてしっかりと輝いている月が浮かんでいる。

何故、行かないぞと宣言していた俺がいるのか。
まあ、結論から言えば、友人の必死な頼みについ首を縦に振ってしまったのだ。
今になって何故うなずいてしまったのか、と後悔している。

街灯の下で、腕時計に視線を向けると、針は8時15分を指していた。
友人と約束したのは8時。既に15分も連絡無しに遅れている。


「......はぁ」


ついため息を吐いてしまった。
後5分連絡が無かったら帰ろう、と俺の中で決定したところ、自分のポケットからピコンと通知音が聞こえた。


「......はぁ」


二度目のため息。
スマホに着ていたのは、やはり友人からの連絡であった。
内容は、急な用事ができたから行けなくてなったとのこと。

一瞬、友人からの質の悪いイタズラだったのかと勘ぐってしまうが、あいつはそういった嫌がらせに近いイタズラはしないと思い直す。
馬鹿だが、基本的に良いやつなのだ。


「......帰るか」


そう呟いて歩き始める。
何となく暗くなった空を眺めてみた。
あるのは控えめに輝く満月と、それよりも更に控えめに光る点々とした星。


何となく、もう少し近くで見たいと思った。

< 2 / 3 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop