いつか、誰かの願いごと
「......遅い」
俺が今いるのは、例の願いが叶う丘とやらの麓。
空には、昼とは違い自己主張の控えめな、それでいてしっかりと輝いている月が浮かんでいる。
何故、行かないぞと宣言していた俺がいるのか。
まあ、結論から言えば、友人の必死な頼みについ首を縦に振ってしまったのだ。
今になって何故うなずいてしまったのか、と後悔している。
街灯の下で、腕時計に視線を向けると、針は8時15分を指していた。
友人と約束したのは8時。既に15分も連絡無しに遅れている。
「......はぁ」
ついため息を吐いてしまった。
後5分連絡が無かったら帰ろう、と俺の中で決定したところ、自分のポケットからピコンと通知音が聞こえた。
「......はぁ」
二度目のため息。
スマホに着ていたのは、やはり友人からの連絡であった。
内容は、急な用事ができたから行けなくてなったとのこと。
一瞬、友人からの質の悪いイタズラだったのかと勘ぐってしまうが、あいつはそういった嫌がらせに近いイタズラはしないと思い直す。
馬鹿だが、基本的に良いやつなのだ。
「......帰るか」
そう呟いて歩き始める。
何となく暗くなった空を眺めてみた。
あるのは控えめに輝く満月と、それよりも更に控えめに光る点々とした星。
何となく、もう少し近くで見たいと思った。